もし身の周りに、夜にコンビニ前でたむろするような人がいるなら、すぐやめるよう注意した方がいい。
そういう話。
もう何年も前の、N県での出来事だという。
地方では、元は別の建物があった土地を流用していたりするため、長距離トラックの運転手が駐車場で休憩できる。それくらい広い敷地のコンビニは珍しくない。
そのコンビニもそんな類の店舗だったのだが、ある時期から、そこの駐車場の一角でガラの悪い若者たちがたむろするようになった。
連中は深夜になるとやってきて、駐車場の片隅に座り込み、その店で買った酒を飲みながらだべり始める。
厄介なことに。
変に騒いだりしないし、たまに空き缶を捨て忘れるくらいでゴミを散らかしたりもしないので、店側としても微妙に注意がしづらい。
とはいえ、駐車場の一部を塞いでいることには違いないし。他の客、特に一人で来るような女性が不安に思うわけだ。
深夜帯のバイトから連中の話を聞かされ、店長はどうしたものかと思案したが。
「例えば、もっと散らかしたり騒ぐようになって、それを監視カメラで撮影できたら何とかできるんだけどねえ…」
その時点では、ほとんど何もできなかったそうだ。
──しかし。
ある時を境に、急にたむろしていた連中は姿を消したそうだ。
結果だけ聞けば、めでたしめでたしと。そう思うかもしれない。
が、実際には。とんでもないことがあったから彼らは消えたのだという。
──事件の起きた、その夜は店長によるワンオペだった。
店内には客もおらず、彼は一人で仕事をしていたそうだ。
仕事の合間、ふと外を見ると。
駐車場の隅で、また連中が座り込んでたむろしている姿が見えた。
近頃では、バイトの女の子の中にも、深夜帯に一人で店番をすることを不安に思ってシフト変更を申し出る者も出てくる始末だ。
(まいったなあ……)
近所から騒音の苦情が入れば警察に連絡できるのだが、悪いことに民家から少し離れた場所にあるのでそういうことにもならない。
悪い話だが、気の荒いトラック運転手あたりとモメたりすれば、とも考えたが。そういう客が来ると連中は途端に静かになってしまう。
なんともやりにくいことだった。
その晩の彼らは、他に客が無いため、いつもより騒いでいた。
その声を聞きながら、店長は悩んだ。
(どうしようかなあ、やっぱり警察に相談とかするべきなのかなあ……。でも、ウチみたいなフランチャイズ店だと、警察に行ったら本部の方からいろいろ言われたりしそうだしなあ……)
つらいところだなあ。
そう思っていた時だった。
駐車場に、一台の乗用車が入ってきた。
店の入り口のすぐ前に車が止まり、そして中から男性が降りてきた。
私服姿だが、恐らくはサラリーマンだろうなという感じの見た目だ。少し細身ではあるが、特に変わったところのない、乗ってきた車同様ごく普通の中年男性だ。
そしてこれまた、普通に店に入り、普通にパンやジュースなどをカゴに入れ、レジで会計をしていった。
その男性の応対をしながら、彼の方を見て。
店長は、ふと思った。
(……この辺じゃ、見かけない人だな)
とはいえ、地方の道路沿いの店舗である。
例えば、深夜にドライブをしていた別の地域の人がたまたま立ち寄った、なんてことは特に珍しくない。
そういう人なんだろうと思い、店を出ていく男性の後ろ姿を見ていると……。
「……ん?」
おかしなことに気がついた。
男性は、車を店の入り口のすぐ前に停めた。
なのに、彼は自分の車とは別の方向へと歩いていくのだ。
彼の歩いていく先には、例の連中がたむろしている。
「……あれっ⁉︎」
一瞬、男性は連中の知り合いなのかと思ったが、見た目も服装の系統も別だし、何より年齢層もまるで異なる。まず知り合いではないだろう。
なのに、男性は連中の方へ何をしに行くのだろう。
何となく気になった店長は、店外のゴミ箱を片付けがてら、外に出て様子を見てみることにした。
外に出ると、駐車場を横切って連中の方へ向かって行く男性の後ろ姿が見える。
たむろする連中の方も、自分たちの方に向かってくる男性に気がついたようだ。
なんだあいつ。俺たちに何か用か。
そう言いたげな、怪訝な顔で様子を伺っている。
とはいえ。
トラック運転手に日和るような奴らとはいえ、夜中にコンビニでたむろするような手合いだ。連中の見た目はそれなりにイカつい。
対して男性は細身で、パッと見ではあまり強そうには見えない。
だから、連中も油断したのだろう。自分たちが座っているすぐ近くまで来た男性を上目遣いに見ながら、一人が言った。
「なにオッサン? 俺たちに何か用なの?」
次の瞬間。
男性は、そいつの顔面を思いっきり蹴飛ばした。
「……えっ⁉︎」
突然の予想外の出来事に、思わず短く声を上げ、硬直する店長。
どうやら、たむろしていた連中も、それは同じだったようだ。
何が起こったのかわからず、 店長同様、血を吹いて崩れ落ちる仲間を見ながら硬直している。
その隙をついて、男性が連中をボコボコに殴りつける。
店長曰く、随分と容赦のないやり方のように見えたという。
つまり、素人目に見ても『その場所にそんなことをしたらダメだろう』と思うような、そんな攻撃を、澱みなく叩き込んでいくのである。
その晩、駐車場にたむろしていたのは三人組だったそうだ。
酩酊していた。座り込んでいて、すぐに動けない体勢だった。そして、風貌から相手を見くびっていた。さらに言えば、不意打ちではある。
そうした事実があるにしても、男性はたむろしていた三人を単独で叩きのめしてしまったのだ。
……とはいえ、これは明確に事件である。
「……えっ? ええっ⁉︎」
目の前で繰り広げられる暴力沙汰に、最初は理解が及ばなかった店長だったが、すぐに我に帰った。
「ちょ、ちょっと! ダメですよ!」
男性を止めるべく、駆け寄っていった。
……すると。
倒れてうめく連中に攻撃を加えつつ、男性が何事か呟く声が聞こえた。
まるで、駅の立ち食い蕎麦屋で、
「昨日はうどんを食べたから、今日はそばにしようか」
と、そんな風に、何気なく独り言を呟くような。
そんな、落ち着いた声だったという。
「……地べたに直に触れたものは、バイキンと同じだ」
(ええっ……)
連中に執拗な攻撃を加えながらの男性のその呟きを聞き、店長はもう動けなかった。
体格的には店長の方が男性より大柄ではあった。その気になれば、取り押さえることは可能だったかもしれない。
だが、連中に攻撃を加える男性のやり方は、
(店長は、格闘技などには詳しくなかったとはいえ)
そんな場所にそんなことをしてはいけないと、率直に感じるような。
そんな、随分と手慣れた行為のように思えたという。
そんな光景を、唖然として見ていると。
不意に、男性の攻撃が止んだ。
「……あ〜ぁ」
息を吐くかのように呟き。ふらり、と立ち上がる。
その足元では、目だの腹部だのとよくない場所に執拗な攻撃を加えられ、倒れ伏した三人が呻き声をあげている。
足元の彼らに目を向けもせず、男性が再度呟く。
「……地べたに直に触れたものは、バイキンと同じだ」
(それで、そんな攻撃をするの⁉︎)
(……ヤバい人だ)
男性のその言動にゾッとしながらも。
店長は、倒れて呻く連中の方へとソロソロと近づいていった。
自分の店の敷地内で起こった事件だ。
迷惑行為を行っていた奴らとは言え、放っておくわけにはいかない。
それに、男性の方も、自分には敵意を向けていないという、そんな感覚があった。
だから、さすがにボコられて倒れ呻く連中を介抱してやらなくては、と。
そう思ったのだ。
……だが。
自分には無関心らしい男性の脇をすり抜け。
連中の側まで来て、様子を見ようとかがみ込んで手を伸ばした時。
上手く言えないが、『第六感的』なものが働き。
店長は、連中の介抱をやめたのだという。
その瞬間、背後から話しかけられた。
「……今、なんで介抱しなかったんですか?」
あの男性の声だった。
(えっ。いや、なんでだろう⁉︎)
突然、背後からかけられた声に驚きつつ。
自分でも疑問に思ったものの。
その答えは、無意識の内に口を突いて出てきていた。
「……いや、まあ。地べたに横たわってるから、バイキンと同じかな、って思っちゃいまして」
無意識の内に、相手の言う理論に合わせてしまったのか。
それにしても、自分は良くない、最低なことを言ってしまった。
そんな軽い自己嫌悪に襲われつつ、恐る恐る目線を向けると……。
男性は。
満面の笑みで、無言のまま店長へと片手を突き出し。
その親指を立て、サムズアップのサインをしていたのだという。
そうして、唖然とする店長を尻目に。
男性は自分の車に乗り込み、駐車場を出ていった。
走り去っていく彼の車。
そのナンバープレートを見た時、店長はあることに気がついたそうだ。
(……ここと全然違う場所のものだ!)
男性の車のナンバープレートは。
ここからは、軽く数十キロは距離があるような。
そんな地域のものだったという。
「……だから。そういうヤカラみたいなのをボコりたくて、それであちこち回ってるヤバいヤツがいて。それがたまたまウチに来ちゃった、ってことなんでしょうねえ」
店長は、そう話を締め括ったそうだ。
──なお。
この話は、その店長から話を聞いた人から提供されたものであるが。
提供者曰く、店長はこうも言っていたという。
「……いや、でも。あの時の俺の判断、スゲエよね。やっぱり、俺『思慮深い』よね。いや、咄嗟にそんなことができるのは、俺が『思慮深い』ってことだよね」
店長から話を聞いた提供者の方は、
「……いや! 世の中で自分に『思慮深い』って言葉使う人、初めて見ましたよ!」
とツッコみを入れて笑い、それによって場が相当沸いたそうである。
──なお、先述したように。
この事件があって以来、このコンビニの駐車場でたむろする連中はいなくなった、ということである。
この話はかぁなっきさんによるツイキャス『禍話』 『禍話インフィニティ 第四十一夜』(2024年4月27日)
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/792407969
から一部を抜粋、再構成、文章化したものです。(0:12:40くらいから)
題はドントさんが考えられたものを使用しております。
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