仮置き場

ツイキャス『禍話』で語られた怖い話の文章化を主にやらせていただいてます

リライトの使用に関するお知らせ(追記有り)

※23年1月末追記
禍話公式より以下の通り、声明が出されました。

 

禍話 二次創作に関して

https://note.com/nightmares4/n/na4b584da01fe

 

今後、特に大きな変更のない限り、私のリライトに関してはこちらの内容に準拠するものとします。

 


なお、朗読等で私のリライトを使用したいという方は、以下の文章をお読み頂ければ、と思います。
(この辺については、以前と変わりはありません)

 

 

 

平素よりご覧いただき誠にありがとうございます。

また、近頃はYouTubeでも自分のリライトを元に朗読していただくことも多く、あまりこういうことに慣れていないこともあって本当に恐縮しております。

 

一方、先日。自分をはじめ他の皆さんのリライトが無断転載されるという問題も発生しました。

これを受けて、

『朗読をしたいのだけど、リライトを使用してもよろしいですか』

というお問合せも受ける様になりました。

ですので、一度そのあたりについて明記しておこうと思います。

 

 

●基本的には『禍話』の理念に基づき、私のリライトについては朗読、ゆっくり等、ご自由にお使いいただいて大丈夫です。

 


(22年9月末追記。とはいえ、全く連絡無しに使われるよりは、一言連絡を頂いた方がこちらとしても気分が良いというか覚えが良いというか、そういう面も確かにあります。
そもそもの問題、その一つである完全に『無断転載』のブログ。あんな感じにやられると、流石にこちらもムッとしますので…)

 

●その際。

①『出典が禍話であること』『私のリライトを元にしていること』この二つを明記する。

 

②『元ページ(禍話の該当する放送回、私のリライト記事など)へのリンク』を貼る。

 

この点を守っていただきたく思います。

 

具体的には、例えばYouTubeなら動画の概要欄にその旨を記載していただく。そういう形でしょうか。

 

私のリライトは最後に、その話の放送回、禍話wiki、舎弟さんや酢豆腐さんの切り抜き動画へのURLを貼っていますが、それを適宜改変しつつコピペしていただく、というのもいいかもしれません。

また、例えばゲーデルさんなど、既に私のリライトを朗読して下さっている方もおられますが、そうした皆さんの動画を参照していただくのもいいでしょう。

(いつもありがとうございます。楽しみに聞かせていただいております)

 

 

●それと、これは普段から本編を聞いてリライトする際にもしていることですが、発表する媒体に合わせて聴きやすい、読みやすい形にアレンジしていただいても大丈夫です。

ただ、『著しい改変』はご遠慮いただきたいかな、と思います。

(例えば、話の中身が大幅にガラッと変わってしまったり、話の良さや怖さの核となる部分を削ったり、ということです。さすがにそれはないとは思いますが、一応)

 

 

●そして、自分はあくまでリライトを『趣味』としてやっていますので、これでお金を稼ごうという気持ちは毛頭ありません。

ですが、YouTube等の他の媒体についてはよく知らないので、もしかしたらそちらでお金が発生する、ということもあるのかもしれません。

その場合、もしよければ本家である禍話の語り手、かぁなっきさんへAmazonほしい物リストから何か贈ってあげるといいんじゃないかな、と思います。

 

 

 

……今後、何かしら事情が変わったらここまでに書いた内容も変化するかもしれませんが、今のところはこんなところでしょうか。

 

 

つまるところ。

私のリライトに関しては、

『出典をちゃんと表記し、元記事へのURLを貼ってね』

ということであり、

『無断転載。自作発言。本編から逸脱した改変。そういうこと(あるいはそれに類する行為)だけはやめてね』

ということです。

これらを守っていただく限り、基本的に使用をお断りすることはないと思います。

また、何か不明な点などがあれば可能な範囲で対応しますので、その際はnoteの問い合わせ用のページやツイッターなどからご連絡ください。

 

※ただ、上記内容に関してはあくまでも、

 

『私のリライト』

 

についての話ですので、他の書き手の方々のリライトを使用したいと思われた時は、
(ヴェナルとかいうやつがこう言ってたから、それでいいだろ)
などと横着をせず、その都度書き手の方にコンタクトを取って了承を得るようにしてください。
言うまでもないこととは思いますが、念のため。

 

 

……吶喊で書いたということもあり。長々と、グダグダとした内容ですが、『禍話』というコンテンツを心穏やかに楽しむためにも皆様にもお伝えしておかなくてはと思い、リライトをやっている者として、それ以前に一人のリスナーとして書かせていただきました。

よろしくお願いします。

禍話リライト 怪談手帖『以津真天(いつまで)』

f:id:venal666:20260507185939j:image

 

昭和の頃の話だという。

 

Bさんの現場仲間が突然亡くなって、高齢な上にロクな身寄りもないからと似たり寄ったりの境遇、その日暮らしの何人かでアパートの掃除を手伝うことになった。

 

無口で影の薄い男だったが、大家曰く、

『許可していないのに、鳥を飼っていた』

とかで、同じ階の住人たちから、外国人に単語を教えるような彼の声と、一拍遅れてひどい棒読みで同じ言葉を繰り返す声が聞こえる、と苦情が出ていたらしい。

 

実際、遺品の中には大きな鳥籠があった。

しかしながらそれは、鳥を飼っていたBさんからすれば、とても使われていたとは思えない代物だった。

 

籠は新品同様にきれいだったし、散乱していた羽は部屋に転がっていた古い枕の中身を出したもののようで、餌入れに詰まっていたカラフルな紙屑は故人の写真を細かく引き裂いた残骸だったそうだ。

 

結局、どこか少しおかしくなっていたんだろうと仲間内で結論づけたのだが……。

 

遺体が発見された状況を、後に彼らは大家から聞いた。

 

 

ある時。部屋の中から、

 

『いつまで、いつまで、いつまで』

 

という声が、ひどい棒読みで繰り返されるようになり、それが何日か続いて不審に思った住人が大家を呼んで、というものだったそうだ。

冬場だったこともあってか、亡くなってから一ヶ月近く死体は放置された状態だった。

 

「……じゃあ、『いつまで』ってのは、早く見つけてくれ、って意味か?」

「まさか……」

 

鳥はどこかから逃げたんだと大家は信じているようだったが、Bさんたちは直感的にそうではないだろうと思った。しかし何が『そうではない』のか、誰も上手く言葉にできず、部屋に残って車座になってぼんやりしている内、仲間の一人が、

「……まあ。俺たちだけでも、あいつのことは憶えていてやろうよ」

というようなことを呟いた。

 

 

その瞬間。部屋の隅の方から、

 

『いつまで……』

 

と、小さな声がした。

 

見ると、壁際の辺りにさっきまでいなかったはずの大きな鳥のようなものがうずくまっている。

(ええ、何だこれ……)

と思っていると、それは顔を上げて、

 

 

『いつまで?』

 

 

と、今度は語尾の上がった、はっきりとした疑問系で言った。

 

死んだ男の、顔と声だった。

 

 

……と、部屋から逃げ出した後で、仲間の一人が証言したが、Bさんはよく憶えていないという。

ただ、明らかに普通のオウムではなくて、目、鼻、唇のはっきりわかる顔をしていたというような記憶はぼんやりとある。

「逃げたりせず、ずっと部屋にいたんだなあ……」

という話になった。

同時に、

「あいつは、鳥じゃなくて、自分の影のようなものを飼っていたんじゃあ……」

という話も出て。

最終的に、

「あの部屋には結局、あいつしかいなかったんだな……」

と、誰かが呟いた。

その言葉を聞いた時、ふっと背中が寒くなった、とBさん。単に怖いというのとは少し違う、とも……。

死体の転がる部屋から響いていた声の話と、自分たちの耳で聞いた、あの、

『いつまで?』

という声とを思いながら、どちらかといえばひどく虚しい、物悲しいような気持ちになったのだという。

 

部屋はその後、幽霊が出ると言って借り手がつかなくなり、アパートが取り壊されるまでずっと空っぽのままだったそうだ。

 

 

 

この話はかぁなっきさんによるツイキャス『禍話』 『 禍話REBORN 第二十三夜』(2026年3月21日)

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/832725647

から一部を抜粋、再構成、文章化したものです。(0:32:40くらいから)

禍話Twitter(X)公式アカウント

https://twitter.com/magabanasi

禍話wiki

https://wikiwiki.jp/magabanasi/

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禍話リライト 怪談手帖『松明丸』

f:id:venal666:20260507185804j:image

 

『魔の物が出る』というような、ひどく曖昧な噂のある山へ度胸試しのつもりで登ろうとしたTくんは、麓から程ない林の間に、炎のような光に浮かび上がる顔のようなものを見てしまい、早々と逃げ帰った。

 

それは、腐りかけた人の目鼻の途中から鳥類の嘴を解かし合わしたような、ひどくグロテスクな代物で、人間の顔と比べるとずいぶん小さかったという。

 

恐怖心が冷めた後で、

『俺は天狗を見たんだ』

などと得意げに触れ回っている内はまだよかったけれど、下山後、Tくんはしばらくして、家の中のランプや電灯など、あらゆる照明の中に、その『顔とも呼べぬ顔』を、度々目撃するようになり、徐々に精神を病んでいった。

 

拒絶を破って見舞いに行った友人の前で、

「自分の幻覚なのはわかってるんだけど……」

と吐露し、枕元の傘付きランプのスイッチを入れると、やはり光の中に、あのとろけたような鳥の顔モドキがグジュグジュと浮かび上がってきた。

 

その瞬間。友人が目を剥いて、

「ウワァッ!」

と叫びながら、その顔をはたき落とした。

 

 

グジャッ

 

 

と、音を立てて。

幻覚だとばかり思っていたそれは、床に落ちて、無惨に爆ぜ割れた。

辺りに胸の悪くなるような腐臭と鉄錆の混じったような臭いが広がり、唖然としつつ顔を見合わせるTくんと友人の前で、床には肉と毛の塊のような、もはや原型の伺えない、ネズミの死骸くらいの何かが、汚いシミを作っているばかりだった……。

 

それからTくんは何事もなく過ごしているが、あの時のことを思い出すと、全身がムズムズするような感覚に襲われるという。

『アレ』は、つまり幻覚ではなかったわけだけど、かと言って、例えば『山から憑いてきたオバケの類い』、というような感じもしない。

強いて言うならば、『何かに触れて、知らず生えてきていたデキモノを、無理やりむしり取ってしまった感じ』がする。

……と、彼は、どこかにまだカサブタやシコリが残っているような、やや歪んだ表情で言うのであった。

 

 

※『松明丸』とは、鳥山石燕の画集『百鬼徒然袋』に描かれた妖怪で、天狗礫の石より出る光とされ、先行研究などでも『魔縁』の名を当てた鳥型の妖怪図と結びつけて考察され、暗闇を照らす光ではなく、仏道修行や思想を妨げる、人を狂わす怪火と解釈されている。

今回蒐集した話においては、本来様々な含意を含む『百鬼徒然袋』の記述にあえてそのままのっとり、山の怪異そのものというよりその副産物、祟りにまで至らぬ障りが肉を得たような、得体の知れぬ何か関する仮の題として採用したもので、例によって直接の関係はない。

 

 

この話はかぁなっきさんによるツイキャス『禍話』 『 禍話REBORN 第十二夜』(2026年1月3日)

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/828941104

から一部を抜粋、再構成、文章化したものです。(0:51:25くらいから)

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5/22(金)は阿佐ヶ谷ロフトAでイベント!
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禍話リライト こっくり譚「じょうざい」

f:id:venal666:20260413111151j:image

 

こっくりさんの話を収集しているKくんから提供された話。

 

ある高校で、こっくりさんがブームになったそうだ。一時は、放課後になると何組ものグループが各教室でこっくりさんを呼び出そうとそれぞれ集まっているような、そんな状態だったという。

 

しかし、こっくりさんというものは、意外と上手く行かなかったりするものだ。そもそも呼び出しに応じず硬貨が動かないこともあるし、やっと動いたと思ったら全く意味のわからない言葉を告げられることもある。その言葉をアナグラムにして、何とか意味がわかるようにしようと頑張るグループもあったが、ずっとそんな調子なので、ウンザリしてもうやめようとなる生徒がほとんどだった。

 

 

だが、そんな中で唯一、ちゃんと意味のある答えばかりが返ってくるグループがあるらしいと話題になった。

もっとも、その内容については、考えようによっては当たっていると言えなくもない、くらいのものだったらしいが。

 

しかし、一つ妙な点があった。

それだけ高確率でこっくりさんが来て答えてくれるのなら、その都度はしゃいで誰かを呼んだりしそうなものだ。

だが、彼らは一切そういうことはしない。ただただ、自分たちだけで淡々とこっくりさんを続けているのだ。

 

 

(閉鎖的なやつらだなあ……)

そうは思うものの、どうしてそんなに上手く行くのか、やはりそれが気になって仕方ない。

そこで上手く行かなかった生徒たちは、そのグループに何かコツがあるのかと訊いてみることにした。

すると、こんな答えが返ってきた。

 

「じょうざいだよ」

 

(……じょうざい?)

何のことか、全くわからなかった。

(……じょうざいって、『錠剤』ってこと?)

まさか、何か変な薬でも使ってラリった結果なのではないか。質問に来た内の一人がそのように考え、慌ててグループを問い正した。

「いやいや、違う違う」

その問いを、メンバーの一人が笑いながら否定する。

 

 

「浄化の『浄』に、財産の『財』の方の『浄財』だよ」

 

 

「……え?」

質問に来た全員、その言葉を知らなかったため、すぐに辞書で調べてみた。

 

辞書には、寺社に寄付したお金のこと。もしくは『お賽銭』のことだと、そう書いてある。

(……えっ⁉︎)

 

 

彼らは、近所の神社の賽銭箱からお金をくすねてきて、それを使ってこっくりさんをしていたのである。

そういう十円玉を使っているから効果があるんだと、彼らは言う。

 

 

つまりは、賽銭泥棒である。

薬物乱用とは別の意味でダメな話だ。当然『それはダメだよ!』という流れになったのだが、じゃあどこの神社から賽銭を盗ってきたのか、ということになる。

それについて、彼らは『どこそこにある神社だ』と説明したわけだが……。

 

 

その地区には、廃神社が一つあるだけだった。

彼らはそこに置かれた賽銭箱から盗ってきている、と言うのだ。

(ええ……)

 

 

とはいえ、話に箔をつけるためにホラを吹いているのかもしれない。

彼らを刺激して話が大事にならないように、ということもあり、その場はそれで話を打ち切り、後日、何人かの有志で問題の廃神社を確認しに行くことになったのだが……。

 

 

そこで彼らは奇妙な光景を見た。

 

 

普通、賽銭箱というものは拝殿の入り口、参拝客の鳴らす鈴の下に置かれているものだ。

なのに、その廃神社の賽銭箱は、何故か本殿の奥の方、それこそ本来なら御神体が安置してあったであろう場所へ移動させられていた。

御神体自体は、どこかに移動させたのか、あるいは誰かに持ち去られたのか、どこにも見当たらない。

 

そんな、がらんどうになった本殿のど真ん中に。

表から持ってこられた賽銭箱が、横倒しになって放置されていた。

 

例のグループ曰く、その状態でも中に手が届かなかったので、棒の先端に粘着テープをつけて、それで賽銭を取り出したらしい。

 

「しかし、何でこんなとこまで賽銭箱を動かしたんだろうなあ」

横倒しになった賽銭箱を見ながら、現場に来た面々が話していると、一人があることに気がついた。

「……あれ? そういやさ。あいつら、何度かここで賽銭を盗った、って言ってたよな?」

「ん、ああ」

「……こんな神社。そんなに何度も盗れるほど、賽銭って残ってるのか?」

「……あ」

 

 

ここがいつ廃神社になったかわからないが、その頃の賽銭が残っていたとしても、たかが知れている。

まして、例のグループが来るような場所だ。既に他の誰かが賽銭泥棒に入っていてもおかしくない。もしかすると、賽銭箱が本殿まで運ばれているのも、そうした輩の仕業かも知れない。

だとすると、そんな場所に、何度も盗れるほど賽銭が残っているものなのだろうか。

 

 

「……誰かが今も、賽銭を入れに来てるんじゃね?」

 

 

一人がボソッと呟いたその言葉にゾッとして、全員すぐにその場を後にしたそうだ。

 

 

後日、例のグループがまたこっくりさんをやっているのを見かけた。

聞くと、やはりあの廃神社の賽銭を使ってやっているという。

そこで、ふと彼らの手元を見てみると……。

 

 

彼らの使っている十円玉は、何年も放置してあったとは思えない、あの廃神社の年代とは合わない、ピカピカのきれいなものだった。

 

 

その後、いろいろあって、その学校ではこっくりさんをする者はいなくなったそうである。

 

 

 

 

この話はかぁなっきさんによるツイキャス『禍話』 『 禍話フロムビヨンド 第三十二夜』(2025年2月22日)

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/811529472

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また、文フリ東京(5/4)では酢豆腐さんとファン有志による『かぁなっきの東西恐怖番付』を販売!

詳細は酢豆腐さんのアカウントにて。

https://x.com/wong_hand/status/2038094726130508011?s=46&t=SZh87SjBLOCtbPzL40twjg

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禍話リライト 叱責と監視カメラと写真

f:id:venal666:20260310230649j:image

 

学生時代、授業で何かしらのビデオを見せられた経験は皆さんにもあるだろう。例えば、戦争の悲惨さを伝えるものだったり、あるいは性教育関連のものであったり。

そうした、授業で見せられた映像に関する記憶の話である。

 

 

「いや。昔、授業でよくわからないビデオを見せられたことがあるんですよ」

体験者であるAさんはそう語る。話を聞いているかぁなっきさんは、

(思想的に偏った内容のビデオとかかな…?)

そう感じた。例えば、戦争等についてデマや誤情報に基づいて作られたプロパガンダ的なものだ。だが、聞けばどうもそういうものでもないらしい。

 

中学生の時の体験だという。

Aさんが言うには、映像を見せられた時の状況自体はさほど変ではなかった。授業の時間を利用し、暗幕を閉じて室内を暗くし、黒板前にスクリーンを下ろし、そこに映写機で映像を流す。そんなよくある状況である。

 

しかし、それ以外におかしな点がいくつもあったのだと言う。

 

まず、上映中。Aさんを始めとする生徒たちは真面目に、静かに観ていたのに、急に担任の先生が怒り始めたのだそうだ。

「おい! ちゃんと静かに観ろ!」

みんな静かにして観ていたのに、突然怒鳴られたのだ。わけがわからない。

当時、クラスの委員長を務めていた男子は、例え先生相手でも理不尽な事にはすぐに反論するタイプだった。

「いや、先生。誰も騒いでなんかいませんよ」

委員長のその言葉に、担任が怒鳴り返す。

 

「……お前らに言ってるんじゃない!」

 

(……え⁉︎)

わけのわからないことを言われ、委員長を始めとして、全員困惑した。

例えば、隣のクラスでも同じように授業で映像を見せられていて、そっちの生徒が大声で騒いでいたとか、そういうこともなかった。

(……先生、頭おかしくなっちゃったのかな?)

思わず、Aさんはそう思ってしまったそうだ。

それがまず最初に奇妙に感じた点であった。

 

さらに、おかしい点があった。

Aさんの記憶によると、その時見せられた映像の中には、モンペを履いた女性が出てきたそうだ。

つまりは戦時中、あるいはその前後の時代の様子を撮影した映像だと、そう思われるわけだが……。

 

それなのに、明らかに時代の違う。現代のものと思われる。

恐らくは監視カメラのものと思われる映像が、不自然に挿入されていたのだという。

 

(……なんだコレ?)

 

ゴールデンタイムに放送される『警察24時』等で流れる、衝撃の瞬間。

それを思い出した。

だが、事故の瞬間の映像が流れることはない。

当然だ。学校で、児童に試聴させている映像なのだから、そんなショッキングなものを見せるはずがないのだ。

(Aさん曰く。その不自然に挿入された、モンペを履いた女性の映像。それは、異様に長尺であったらしい)

 

そして、三つ目の奇妙な点。

それに気がついたのは、映像が終わりに差し掛かった時のことであった。

 

そうした映像作品が終わる際、クレジット、スタッフロールが流れるものだ。

それらの流れ終えた後、『終』と表示されるものだ。

 

だが。

その映像は違った。

 

スタッフロールらしい文字列が延々と流れる。

 

それが、途中で急に切り替わる。

 

 

どこかの家の、家族。

十数人の人々が並んで、こちらを向いている。

そんな、もう何十年も前に撮影されたと思われる画像。

 

 

そんなものに、急に切り替わるのだ。

そしてその画像が写るや、先生が立ち上がると、教室の暗幕を開け始めた。

『終』という文字も出ていないし、それどころか映写機も動かしたままで、だ。

(えっ、えっ⁉︎)

呆気に取られるAさんたち生徒を前に、先生はリモコンを操作し、黒板前に下がったスクリーンを収納する。

 

実際、遠い昔の記憶であるので、Aさんのその奇妙な記憶が実際の出来事だったのかはわからない。本当は記憶違いで、映像もまだその先があったのかもしれない。

ただ、授業の後。クラスメイトで集まって話し合うと、確かに皆、三つの奇妙な点。つまり、いきなり怒り出した先生。脈絡なく挿入された映像。そして謎の写真と、突然上映を切り上げた先生。それらについて変に思った、というのは共通していたのだった。

 

 

「……不思議でしょ?」

話を終えたAさんが、かぁなっきさんへ語りかける。

「不思議、ですねえ。うーん。でも、それは何か、映画とかを観た、とかじゃないんですか?」

かぁなっきさんがそう訊ねると、Aさんは首を横に振る。

「いやあ、わかんないんですよ」

 

 

「先生、卒業式にいなかったんですよね」

 

 

「……えっ?」

Aさん曰く、担任はその奇妙な映像を見た授業の後、様子がおかしくなり学校に来なくなってしまったらしい。

その後、新しい担任は来て、Aさんたち生徒は無事卒業までは過ごせた、のだが。

そういう事情があるので、どうも気まずい。

だから、Aさんの通っていた中学のクラスでは、同窓会は開かれていないのだそうだ。

 

 

「え、でも。同窓会はなくても、一緒に映像を見たクラスメイトの方はいるわけでしょ? 連絡とって、何かわからないもんですかね?」

「いやあ、それがねえ。だんだんみんなとも連絡取らなくなっちゃって……」

「え、皆さん、地元を離れちゃった、とか?」

「いや、私もみんなも、地元にいるんですよ」

「……どういうことですか?」

 

 

授業後、みんなで集まって話し合ったように、その授業について違和感を覚えたクラスメイトはAさんだけではなかった。

そうした旧友たちの中には、後年、その授業と映像について調べようとした者もいた。

 

すると、決まってその調べ出した者は、異様な頻度で周囲に連絡を取り、経過報告をするようになるのだという。

それこそ、学生の頃からさして親しくなかったような相手にまで、ひっきりなしに電話をかけるようになるのだ。

そして、授業や映像についての話をするのならまだしも、全く関係ない話を捲し立てる。

例えば、どこの誰が、毎朝何時に起きて、どんな行動をして、というような内容だ。

そんなことを聞かされ続けるのだから、

(ああ、あいつはもうダメだ)

と、次第に人が離れていくのは当然だ。

そんなことがあり、Aさんの中学の同級生たちは疎遠になってしまったのだという。

 

 

「……で。どうも、私もそんなことしてたみたいで」

 

そんな話題が出始め、皆が完全に疎遠になる前。

Aさんは中学時代の友達から、自身もそのようなことをしていたらしいと聞かされた。

だが、彼自身には全くそんな記憶はない。わけがわからず、どうにも気持ちが悪い。

よって、Aさんは中学時代の同級生たちと完全に縁を切ることにしたそうだ。

 

 

「……だから。同窓会なんかしないし。先生も結局、生きてるか死んでるかわかんないし。

うん。だから、全部あの映像でおかしくなったんですかねえ」

そんな風に、どこか呑気に語るAさんに対し、かぁなっきさんはもう何も言えなくなってしまったそうだ。

 

 

この話はかぁなっきさんによるツイキャス『禍話』 『 禍話フロムビヨンド 第三十二夜』(2025年2月22日)

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教室

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禍話リライト 鼻唄とガラス窓とテープ

f:id:venal666:20260215023503j:image

 

この話の提供者であるCさん。

彼女が高校生の頃の体験談である。

 

 

どこの学校にも一人くらいは、眠気を誘うような授業をする先生がいる。Cさんの通っていた高校にも、そんな先生がいた。

(眠気を誘う授業内容、ということで。仮にN先生とする)

 

やる気がないわけではない。だが、生徒を指名して問題を解かせたりせず、ただ静かに淡々と教科書を読み上げるだけだ。年配の男性なので、その声質と相まって、どうしても眠気を誘われる。昼休みや体育の授業の後だと、特につらい。

実際、N先生の授業ではクラスの大半が居眠りをしていたし、真面目な生徒でも睡魔と戦っているらしい様子を度々見た記憶があった。

Cさん自身もそれなりに真面目な生徒だったため、頑張って話を聞いてノートをとろうとするものの、しょっちゅう睡魔に襲われ、そのまま寝てしまったことも少なくなかったそうだ。

 

 

──Cさんは、そのN先生の授業に関して、奇妙な体験をしたのだという。

 

 

ある日のこと。

いつも通り、CさんはN先生の授業を受けていた。

いつもの様に、教科書を読み上げる先生の声が、皆の眠気を誘う。

大半の生徒が既に脱落し、いびきを立てる中、Cさんは睡魔に抗っていた。時折、眠気に負け、首がガクッとなり、

(おっと、いけないいけない……)

となる。

そんな風になりながら、頑張ってノートをとっていたのだが……。

 

 

そこに、急に聞こえて来た音があった。

 

鼻唄だった。

 

『♪フ〜ンフ〜ンフ〜ン』

 

 

どうやら、誰かが鼻唄を歌いながら廊下を歩いているらしい。

廊下側の窓から離れた、クラスの中程の席にいるCさんにまではっきり聞こえていることから、結構な音声で歌っているのがわかる。

(誰だろう……?)

生徒か、教職員か、あるいは外部からの訪問者か。そう思って目を向けると、廊下側の窓、そのむこうを影が通っていくのが見えた。曇りガラスの向こうなので、性別や服装等はわからないが、背丈はCさんと同じくらいのように思える。

そうしてCさんが廊下を歩く影を見ていると……。

 

 

ピキピキピキッ!

 

 

その影が廊下を通った瞬間。

結構な音と共に。

廊下側の窓ガラス、その内の一枚に大きなヒビが入った。

 

 

(えっ⁉︎)

不可解な光景だった。

廊下の影が窓に何かをぶつけたり、あるいは思いっきり押したり叩いたりしたわけではない。影はそんな動きはしなかったし、それどころか窓に近づいてすらいない。

それなのに、そんな大きなヒビが、窓ガラスに急に入ったのだ。

 

ヒビの様子は、かなり深刻なように思えた。少しぶつかったりしただけで、粉々に割れて破片が崩れ落ちて来そうだ。そうなると、窓際の席の生徒が危ない。

そこでCさんが、その窓のすぐ隣の席の生徒へ目を向けると……。

 

(……あれっ⁉︎)

 

その生徒は、机に突っ伏したまま、眠っている。

 

周囲を見ると。他の生徒たちも、同じように眠っていたり、ウトウトしている。

鼻唄にしても、ガラスの音にしても、結構大きな音量だったのに。まるでそれらがCさんにしか聞こえなかったかのように、皆そのまま眠っているのだ。

(え、どういうこと?)

 

そこで、Cさんはおかしなことに気がついた。

あれだけの音量で鼻唄を歌いながら廊下を歩いていたのだ。当然、他のクラスにも聞こえているはずだ。なら、犯人の正体を突き止め、注意するために先生たちが出てくるはずだ。

なのに、そんな様子は一切ない。

(え、私にしか聞こえてないってこと? ていうか、夢?)

わけがわからず困惑するCさん。

すると……。

 

 

「……ん? あ、あー、あー」

 

 

それまでずっと淡々と教科書を読み上げ続けていたN先生が、ふっと顔を上げ。割れた窓の方を見て、そんな声を上げた。

そして立ち上がると、教卓の傍に置かれたセロテープを手に取り、窓の方へ近づいていく。

窓のそばまで来ると、N先生はセロテープをガラスに貼って補修を始めた。その貼り方が、また何とも適当なものだった。

(もっとこう、ヒビに沿って貼るとかした方がいいんじゃないの……?)

そんな風に思いながら、先生が補修している様子を眺めるCさん。

奇妙なことに、すぐ隣で先生がゴソゴソしているにもかかわらず、相変わらず窓際の生徒は眠ったままで、ピクリともしなかった。

 

「……よし」

その内に、補修を終えたN先生はそんな声と共に満足げに頷いた。そして教卓へ戻ると、何事もなかったように授業を再開したのだった。

鼻歌が聞こえてから先生がガラスの補修を終えるまで、およそ数分。その間、Cさんから見える範囲のクラスメイトは皆眠ったままで、目を覚ましたらしい者は一人もいなかった。

(え、どういうことなの⁉︎ 夢⁉︎)

困惑するCさん。後になって考えれば、先生に何をしているのかとか、その時に訊ねれば良かったのかもしれない。だが、その時のCさんはそんな気にならなかったし、そもそもそんな考えが浮かびもしなかった。

その内、先生が教科書を読む声を聞いていると、再び眠気が襲って来た。そして彼女もクラスメイトたちと同じように眠ってしまったのだった……。

 

 

Cさんが目を覚ましたのは、あと数分で授業が終わるという頃だった。

起きたばかりでぼんやりした彼女の頭の中に、次第にさっきの奇妙な出来事について、記憶が蘇ってくる。

(そうだ。さっきの窓ガラス……)

そしてガラスの方を見て、驚いた。

授業終了後、窓際の生徒が席を立った隙に、Cさんは窓へ近づき、ガラスの様子を改めて確認した。

 

 

ヒビが、消えていた。

 

 

(何で……⁉︎)

あれだけ大きなヒビが入っていたのに、新品のようにきれいになっている。別の窓と間違えたのかとも思ったが、他のものにもヒビは入っていない。もちろん、そんな短時間に割れたガラスを入れ替えるなんてことが出来るはずもない。

では、全て夢の中の出来事だったのかというと、そうではない。

 

窓には、セロテープが貼られていた。

授業中にN先生が補修した、あの適当な貼り方の通りに、だ。

 

すると、あの時の出来事は、やはり現実だったのか。しかし、そうするとヒビが消えていることについて説明がつかない。

全くわけがわからなかった。

 

 

その内に、昼休みになった。

お弁当を食べながら教室内を見ていたCさんは、あるクラスメイトに目を留めた。

クラスで一番真面目なことで知られる女子だ。

いつもしっかり授業を聞いていて、テスト前になるとノートを貸して欲しいと皆から頼まれる、そういう生徒である。

彼女の席は、Cさんより後ろにある。あの時、さすがに授業中なので背後を振り返って確認することは出来なかったが、彼女なら眠気に耐えてちゃんと授業を聞いていた可能性がある。

なら、彼女に訊けば、あの出来事が夢か現実か判断できるはずだ。

そう考え、Cさんは彼女に訊いてみることにした。

 

「ちょっといい? 変な話だけど、さっきの授業の時なんだけどさ……」

そうしてCさんが先程の体験について話すと、その女子生徒の表情が見る間に変わっていく。

「……ああ、よかった! あたしだけじゃなかったんだ!」

聞けば、後ろの席にいた彼女も、Cさんと全く同じ光景を目撃し、わけがわからず困惑していたのである。

「ああ、やっぱり、夢じゃなかったんだ!」

体験談をすり合わせた結果、自分の見間違えでなかったことを確認できて安堵する二人だったが、しかし意味がわからないことに変わりはない。

二人でいろいろ話し合った挙句、その女子生徒が、

「……あんまり、触れちゃいけないことなのかもしれないね」

と言うので、

(そういうもんなのかなあ……)

と、Cさんもそう考え、話をそこで打ち切ったそうだ。

 

 

──その日の放課後のことだった。

Cさんは帰宅部である。部活がないので、すぐに帰って良いのだが、昼間の出来事のせいか、気持ち悪くて何故かすぐ帰る気にならず、教室に残っていた。

ふと気づき、時計を見るとかなり遅い時間だ。さすがにもう帰らないといけない。

傍を見ると、例のガラスには、まだセロテープが貼ってある。

何となく気持ち悪さを感じ、

(実際に割れてるわけじゃないし、良いか……)

そう考え、貼られたテープを全て剥がし、そして下校することにした。

 

そうして、昇降口に向かおうと、階段を降りて一階に向かうと……。

 

Cさんの通う高校には、当時、あまり使われていない校舎があった。普段は備品置き場として使われている、いわゆる旧校舎だ。

そこから、音が聞こえた。

 

 

ガシャン!

 

 

(……え、何だろう?)

不思議に思い、Cさんは音の正体を探りに、旧校舎に行ってみることにした。

 

ホコリの臭いの充満する旧校舎に入ってすぐ。

Cさんは、薄暗い廊下の奥に人の姿を認めた。

 

 

N先生だった。

 

 

棒状のものを携え、それを振るい。

廊下側から教室の窓を、次々に叩き割っているのだ。

 

 

(えっ、N先生、何してるの⁉︎)

普段、穏やかで物静かなN先生。その彼と、目の前で行われる凶行が結び付かず、呆気に取られ、固まったまま眺めるCさん。

 

その様子を見ている彼女の頭に、急にある考えが浮かんだ。

 

 

校舎も、階数も違うが。

N先生が、今まさに窓を叩き割ろうとしている教室。

それは、そのままスライドさせると、Cさんが普段使っている教室と同じ位置にあるのではないか。

上手く言葉にできないが、そんな気がした。

 

 

そうしてCさんが見ていると、不意にN先生の動きが止まった。

棒を下ろし、視線を彼女の方へ向ける。

 

 

「……ああ。早く帰りなさい。もう遅い時間だから」

 

 

そのように、普段と全く変わらない口調でそう言われた。

恐怖と困惑の中、Cさんはその言葉に応える。

「……いや、あの。ガラスの割れる音がして。何だろうと思って見に来たんですけど……」

「……ああ、これ? これは、片付けとくから」

Cさんの言葉に、N先生はことも無げにそう答える。

「あっ、そうですか……」

先生のその様子に何も言えなくなり、Cさんは慌てて学校を出たそうである。

 

 

──Cさん曰く。

『それっきり』だったそうだ。

「いい先生だったんですけどねえ……」

そんな風に言葉を濁され、それ以上のことを聞かなかったため、N先生がどうなったのかは不明である。

 

 

※ただ、最後にCさんが語った内容によると。

 

後日、同じ階の別のクラスの友人たちにも、その日のことを訊いてみたそうだ。

すると、やはりあの時、誰か廊下を歩きながら鼻唄を歌うのを聞いた、そんな証言が多数得られた。

ただ、ある地点でぷっつりとその声が途切れたらしい。

学校の廊下、その両端には階段があり、当然そこに隣接する教室がある。その教室にいた生徒によると、その鼻唄は、ちょうど階段に差し掛かるだろうというあたりで聞こえなくなったのだという。

つまり、階段を降りる間もずっと歌っていたのではなく、廊下を歩いている時だけ歌っていた、ということになる。

その証言により何かがわかったわけではない。むしろ、余計にわけがわからなくなって不気味さが増したわけだが、そのような補足情報があったそうである。

 

 

 

この話はかぁなっきさんによるツイキャス『禍話』 『 禍話フロムビヨンド 第三十二夜』(2025年2月22日)

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/811529472

から一部を抜粋、再構成、文章化したものです。(0:28:10くらいから)

題はドントさんが考えられたものを使用しております。

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禍話リライト コツコツ病院

f:id:venal666:20250611092114j:image

 

廃病院のついての話。

 

この話を提供したAさん(男性)が言うには。

その廃病院は、例えば『医療ミスが原因で……』だとか、そうした曰く因縁のある場所ではないそうだ。

 

敢えてその病院の問題点を挙げるとすれば、先代の院長くらいだろうか。心療内科の医師だったというその院長は、診察の際に患者の求めるままバンバン薬を出してしまうタイプだったという。

時代が時代とはいえ、当然ダメな行為だ。彼の引退後、引き継いだ後任の医師により『さすがにそれはダメだ』ということになり、それからはそうしたことは一切なくなったそうだ。

 

とはいえ、問題といえばそれくらいだった。廃墟になったのも、建物の老朽化に伴い、別の場所に新しい病院を建ててそちらへ移転し、その結果使われなくなったためだという。

つまり正規の手順を踏んだ結果、廃墟となったのだ。元々病院内にあった機材や備品等も、移転に伴い新病院の方へ移されており、内部にはもう何も残っていないらしい。

とにかく、そんな何の問題もない病院の廃墟なのだそうだ。

 

 

それなのに。

深夜になると、病院内部からコツコツという妙な音が聞こえてくるらしい。

 

 

昔、その音を聞いた人が正体を確かめようと病院内に忍び込んだことがあったそうだ。

資材等を運び出した後ということもあり、病院はロクに警備もしておらず、侵入することは容易かった。

そこでその人は内部を隅々まで探索してみたのだが、 例えば隙間風によってゴミが揺れていたりとか、パイプから水が滴っていたりとか、音の出所らしきものは全く見つからなかったという。

結局、何も発見できないまま、その人は病院を後にしたということだ。

 

 

──という話が、禍話の語り手であるかぁなっきさんへAさんから寄せられた。

正直なところ、当時のかぁなっきさんはあまりピンと来なかった。そのため、この話はお蔵入りになることとなった。実際、提供された話の中で特に目立った点もないのだから仕方がないことと言えるだろう。

 

 

……だが、それからしばらく経った後。

Aさんから、その廃病院にまつわる体験談が寄せられた。

 

 

──以下。

寄せられたAさんの体験談である。

 

普段、滅多にそんなことはしないのだが。

その日のAさんは珍しく、午前三時過ぎに外を歩いていた。遊びに行き、ずいぶん酒を飲んだ。その帰りだったそうだ。

 

土地柄もあり。Aさんのように、この時間帯に外を歩いている人影は全く見かけない。

酒の抜け切らないフラフラした足取りのまま、彼は家路を急ぐ。

(あ〜、ずいぶん遊び過ぎたな……。でもまあ、明日は休みだからいいか……)

そうして、例の廃病院の前の道を通りかかった。

 

コツコツコツコツ……

 

かつて自分が禍話へ提供した話に出てきたような、コツコツという音が聞こえ。

Aさんはビクリとした。

 

同時に、噂に聞いていたその音を直に、自分で聞いたことで。

それが何の音なのか、ハッキリと脳裏にイメージが浮かんだ。

 

(これ、アレだ。爪で机とかを叩いてる音だ……)

 

苛立った女性が長い爪でテーブルの表面を何度も叩いている。

ドラマなどで見かけたことのある、そんなイメージが浮かんだ。

 

普通なら、そこで気味悪がって足早に逃げ去るものだろう。

だが、その時のAさんは多分に酒が入り、気が大きくなっていた。

(……音の正体を、突き止めてやろう)

酩酊した頭で、そう考えた。

 

廃病院へ近づき、入り口のガラス越しに中を覗き込む。

中には、人影のようなものは見えない。

しかし、さっきまで確かに爪で叩くようなコツコツという音は聞こえていたわけだ。

 

(あれ、おかしいな。さっきまであそこの受付とかナースステーションとかのあたりで音が聞こえてたのに……)

 

不審に思い、廃病院の中へAさんは侵入した。

(誰もいないな……)

灯りもないまま、廃墟の暗闇の中を歩き回り、彼は隅々まで探してみた。

だが、人影どころかそれらしい痕跡すら見つからない。前に聞いた噂通り、そんな音の鳴りそうなゴミ等も見当たらない。

 

(今まで音が聞こえてたのに、どこにもいないってことは。どこかに隠れたのかな……)

 

建物内をぐるりと確認して回った後。

入口の方へ戻ってきたAさんは、奥の方の暗闇を眺めながら、そのように考えた。

 

 

コツコツコツコツコツコツコツコツ……

 

 

(……えっ⁉︎)

突然、背後であの音が鳴り始めた。

 

出所は、間違いなく受付だ。誰かが長い爪で、カウンターの表面を叩いている。

 

(さっきまで、誰もいなかったはずなのに……)

背後からの音にゾッとして、Aさんは今すぐ逃げ出したくなった。

 

だが、悪いことに。

Aさんは今、病院の奥の方を向いて立っている。さっき侵入した、建物の入り口に背を向ける格好だ。そして、受付は入り口のすぐ脇にある。

建物から出られそうな場所は、自分が入ってきた入り口の他にない。

 

つまり、ここから逃げ出すためには、後ろを振り向かないといけない。

受付を。そこにいるはずの『音の主』を。絶対に視界に入れなくてはならないのだ。

 

(ウワーッ! 怖い! どうしよう⁉︎)

背後からコツコツと音が鳴り続ける中、Aさんは悩んだ。そして、もう他に手はないと、覚悟を決めた。

(いち、にの……、さんッ!)

 

 

意を決し、振り返った。その目線の先。

入り口の横、受付のところに。

 

女がいた。

 

 

ボサボサの、長い黒髪だった。

ずいぶん着古したような、恐らく寝巻きの類らしい服を着ている。

さらに、足元は裸足だ。そんな格好で外出できるのか、という感じだった。

 

そして。

ストレスで、自分で噛んだのか。あるいは不摂生のためか。ボロボロになった爪で、受付の台の表面を、執拗に叩き続けていた。

 

突然現れた女。

それに驚き、先ほどの覚悟などすっかり忘れてしまった。

そうしてAさんは硬直し、突如現れた、受付を爪で叩き続ける女を見ていた。

 

……すると。

女が、ゆっくりと彼の方を向き。

こう叫んだのだという。

 

 

『……ここで待ってくださいって言われたから。

アタシ、ずっと待ってるんですけどォッ⁉︎』

 

 

──そこから何があったのか。

全く記憶がない。

 

次に気がついた時、Aさんは自宅にいた。

そんな記憶は一切ないのに。普段、就寝時に着替える寝巻きへ、いつの間にか着替えていた。

なのに、足元を見ると靴を履いたままだった。

必死で自宅へ逃げ帰り、そして気が動転したまま普段の行動をこなして床についた。そうなったのではないか。Aさんはそう解釈したそうである。

 

「……まあ、そういうことがあったから。死んだ人なのか、生きた人なのか、生霊なのかわからないけど……。あそこはハンパないですよ。あの『コツコツステーション』は!」

 

Aさんの話を聞いた後。

「……なんだよ『コツコツステーション』って!」

かぁなっきさんは、そんなツッコミを入れたそうだ。

 

 

 

この話はかぁなっきさんによるツイキャス『禍話』 『震!禍話 十六夜 佐藤復活祭』(2018年5月27日)

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/467355250

から一部を抜粋、再構成、文章化したものです。(0:54:00くらいから)

題はドントさんが考えられたものを使用しております。

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