2021-01-01から1年間の記事一覧
昭和の半ば頃のことだというから、昔話というほどではない。 Aさんのおじいさんが住んでいた集落のすぐ近く、山の麓で起きた奇妙な話だという。 ある昼過ぎ。山菜取りに行っていた老人たちが、興奮しながら駆け戻ってきた。 山道に入ってすぐの古い大きな樹…
「……あれはね、甲羅のことですよ。 スッポンかカメか、とか。そういうことじゃないんですよ。 どっちでもないんですよ……」 河童の話題を振った時、Aさんはそう強く主張した。 「よくあるでしょ? 絵に描かれてるような。 頭に皿があってクチバシがあって、い…
妹さんとの幼い頃の思い出だという。 「……妹は何と言うか、フワフワした子でした」 歳の離れた姉妹のことを、Aさんはそう例えた。 物心のついた時から、どこか地に足がついていなかった。 話していても急にフッと黙ってしまい、何か別のものに気を取られてい…
中原中也のおばけ。 確かにそう言われたので、些か面食らって僕(怪談手帖の収集者である余寒さん)は聞き返した。 「……中原中也って、あの詩人のですか?」 「そうです。ええ、あの有名な。母から聞いた昔の話なんですがね……」 Bさんの故郷の街に、それなりに…
禍話の語り手、かぁなっきさんはある古いUSBメモリを所持している。 日本列島、そのどちらかと言えば西の方にある某大学。そこにかつて存在した、大学非公認の文芸サークルに由来する品だという。 そのサークルの活動はオカルト、ホラー、心霊に特化していた…
平成の終わり頃、とある高校で英語教師を勤めるTさんの体験した話。 ある日の放課後、小テストの成績が悪かった生徒相手に職員室で指導をしていた時のことだ。 「おまえ、何回言ってもここのとこの『have』が『has』になるなぁ」 「すんません……」 「いいか…
今は定年退職して暮らされているAさんが、昔おじいさんから聞いたという話。 若い頃、おじいさんは旅行好きで、それもいわゆる出たとこ勝負というか、ある地方へ出向いたら明確な目的地を定めずにブラブラするタイプだったらしい。 その日も仕事の予定がなく…
①『看板を読め』 https://venal666.hatenablog.com/entry/2021/07/16/210129 ②『シャッターは閉まる』 https://venal666.hatenablog.com/entry/2021/07/16/210147 ③『指をさすやつ』 https://venal666.hatenablog.com/entry/2021/07/16/210200 ④『ランドリー…
『看板を読め』で語られた、奇怪な交通事故が起きた後にコインランドリーになった空き地。 そのコインランドリーは放送当時も現存していたそうだ。 隣のパーキング同様、他と比較して値段が安い。本来の値段設定だとかその辺についてはよくわからないが、常…
『看板を読め』で語られた、後にコインランドリーとなった区画の話。 そのコインランドリーの駐車場は、コインパーキングを兼ねていることもあってそれなりの広さがあるのだが、そこを利用する者はほとんどいない。 というのは、そのコインランドリーとパー…
『看板を読め』で語られた、後にコインランドリーとなった交差点近くの空き地。 そこへ通じる道を進んでいくと、車一台通るのがやっとという細い路地になる。そこをさらに行ったところに小さな建物がある。 元はうどん屋だか定食屋だか、夫婦によって営まれ…
九州にある某大学。 (かぁなっきさんを始めとする、禍話の関係者が通っていた大学ではないそうだ) その近くにある交差点。 そのある一角のみ、他と比較して異様に事故が多いことで近隣ではよく知られているという。 交通量や街灯の設置数などという、交通事…
禍話の語り手であるかぁなっきさん、その後輩であるHさんは山登りが趣味である。 もっとも、その内容が少し変わっていて、スーツに革靴という格好で低い山に入る、というものだそうだ。 そのため、時には周辺の住民に、 (世を儚んでやって来た人なのでは……?)…
怪談手帖の収集者である余寒さんが縁あって地方の行事に参加した時、スタッフのひとりとして来ていたAさんから雑談の合間に聞いた話。 「今思えば子供の記憶だし、何かの見間違いか勘違いで覚えてるんだと思うんですけどねぇ……」 と、Aさんは前置きした。 昭…
(この話は禍話リライト本Vol.3発売、発送開始時に行われたリクエスト募集企画で私の以下のツイートを採用していただいたものです) https://twitter.com/venal666/status/1375846150473801731?s=21 https://twitter.com/venal666/status/1375846710530895873?…
『……天狗と申すは人にて人ならず、鳥にて鳥ならず、狗にて狗にもあらず、足手は人、かしらは狗、左右に羽生えて飛び歩くるものなり』 『平家物語 巻十』より 「……俺、天狗を見たことがあるんだよ」 薄く紫煙を立ち上らせる煙草を指の間に挟みながら、ふざけ…
ある廃墟を訪れたグループの話。 そこは特に謂れのある場所ではなかった。せいぜいがそこに住み着いていたホームレスが自然死か病気などで亡くなっているのが発見されたことがあるとかないとか、その程度の噂があるくらいだ。 肝試しではなく、廃墟の写真を…
(内容的に一部の方、特に女性にとって不快に思われる表現があるかもしれません) 私は関東進出前、大阪でやりたい放題だった頃のケンドーコバヤシさんのネタが大好きでして。 そのケンコバさんには『緊急特別DVD 追悼ケンドーコバヤシさん』というDVD作品があ…
「……禍話でも前に言ってるかもしれないんだけど、寝取られエロってのが理解できなくて。昔から。 大事な彼女とか幼馴染が、なんかヤンキーみたいなのと身体だけの関係になってすっかり満足しちゃって、だいたい最後は携帯か何かにエッチなことしてる動画がき…
夕暮れ時、外を歩いていると山の方角から遠く鐘の音が聞こえることがある。 近くに寺があるとは聞かない。それでも確かに黄昏の時刻を知らせるように、薄く溶けそうなほど微かに虚な鐘の音がする。 このようなことは人によっては幾度か経験したことがあるか…
大手企業で管理職を務めるYさん、彼は写真嫌いで有名である。 カメラを向けられるだけでなく、携帯電話でのちょっとした撮影の端に自分が写り込むことでさえも嫌がるという筋金入りで、周囲からも不思議がられているそうなのだが、その理由をYさんはあまり人…
怪談手帖の話を採集、提供している余寒さんが年嵩の人たちに話を聞いて回っていた頃、山歩きをしていたという何人かから『飛ぶ布』の話を聞いたことがあった。 その目撃談はだいたい共通している。 山間を歩いている時、ふと見ると緑の山肌の上を布が飛んで…
誰のものかわからない。そういう傘というのはあまり良いものではない、とよく言われる。 それは、今も昔も変わらないのかもしれない。 昔、と言っても戦後くらいのことだそうだが、ある集落で青年団をしていた人の話だ。 晩秋の頃、あるどしゃ降りの日のこと…
Yくんは今まで生きてきた中で幽霊の類など見たことがないという人だが、一度だけひどく嫌な目にあったことがあるという。 それなりにニュースで取り上げられた事件に関連しているので地名などは伏せてほしい、そう前置きした上で話してくれた。 当時彼が通っ…