仮置き場

ツイキャス『禍話』で語られた怖い話の文章化を主にやらせていただいてます

禍話リライト 忌魅恐『トイレのえつこちゃんの話』

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※十一月十日は『トイレの日』です。

 

 

九十年代、関東地方のとある小学校での話。

 

学校の怪談、といえば。

やはりその代表は『トイレの花子さん』である。

 

その小学校の旧校舎、二階の女子トイレにも、

『女の子の幽霊が出る』

という噂があった。

 

ただ、その学校の幽霊は『花子さん』ではなく『えつこちゃん』と呼ばれていた。

 

噂によると。

『えつこちゃん』は、毎月第三日曜日。

夕方の五時四五分から夜十時半までの間に現れるのだそうだ。

 

本家の花子さんもそうだが、この手の幽霊は、

『何故、どのようにして亡くなったのか』

そうした情報も、噂に付随して語られることが多い。

 

 

しかし。

『えつこちゃん』に関しても、そうした来歴のような話が伝わってはいたのだが。

これがどうにもはっきりしない。

 

 

というのも、

『伝わっている話のパターンが、あまりにも多すぎる』

……そのためである。

 

 

彼女が死を選んだ理由について、親の躾が異常に厳しかったからだとか、クラス内でイジメを受けていたとか、担任教師から目の敵にされていたとか、そのように様々に語られている。

 

 

亡くなり方も、首を吊ったとか、手首を切ったとか、蓋を閉じた洋式便器に座ったまま心肺停止状態で発見されたとか。

(何故かそこだけ妙に詳しく説明されているらしいのだが)

睡眠薬を調達してきて一気に服用したとか。

そのように、複数の内容が伝わっていた。

 

 

通常、こうした噂については、来歴に関して内容が固定されていることがほとんどなのだが『えつこちゃん』の噂に関しては、上記のように無数のパターンが伝わっていた。

 

 

……なお。この噂について、過去に調査した人物がいたらしい。

それによると、事件か事故かという点も含め、詳細は不明だが、かつてえつこちゃんという女生徒がその旧校舎で実際に亡くなっている、という事実が確認できたそうだ。

(当然だが『えつこちゃん』というのは仮名である)

 

 

そうしたこともあり。

この噂について知る者の間では、

 

『生徒にショックを与えないよう、教師たちがえつこちゃんの死に関して詳細を伏せた結果、生徒たちがあれこれ想像して噂に尾鰭がついていき、そうして生まれた無数のパターンがそのまま伝わっているのではないか』

 

と、そう解釈されていたそうだ。

 

 

 

──さて。

この話の提供者である田中さん(仮名、女性)の体験談である。

 

小学生の頃、彼女はその手の話に興味がなかった。そのため、えつこちゃんの噂については知っていたが、具体的にいつ現れるのかというところまでは知らなかったそうだ。

 

田中さんが在学していた当時、小学校ではウサギやニワトリを飼育しており、彼女はそれらの動物の世話をするクラブに所属していた。そのため、彼女たち部員は交代で、休日でも学校に顔を出していたわけだ。

 

 

その日も、田中さんは同じ部の仲間たちと共に学校へ行き、動物たちの世話をしていた。

いろいろな都合があり、その日はやるべき仕事がいつもより多かった。それに加え、具合が悪そうにしている動物がいたため、その対応をすることになった。

そういうわけで、全ての仕事が終わった頃には、いつもより遅い時間になってしまっていたそうだ。

 

 

そうして。

もう遅いし、早く帰ろうかとなった、その時。

仲間の一人が急に『アッ! 』と声をあげた。

 

 

「……え? なに?」

「ヤバい、ヤバいって! あ、時間もヤバい! 今日ってさ、日曜日だけど、第三日曜日じゃん!」

「……え? 何が?」

「いや、ほら! 今日『えつこちゃん』の出る日だよ!」

「……あー。はいはい。あの噂話の、ね」

 

最初は何の話かわからなかった田中さんだったが、そこでやっとあの噂のことを言っているのだと思い至った。

 

「……いやいや。ないよ、そんなの。単なる噂でしょ」

その手の話を信じていない田中さんが馬鹿馬鹿しいと否定するものの、その子はかなり怯えた様子である。

「いや、でも、怖いよ……」

「いやいや、ないよ。それに、旧校舎のトイレなんか行かないしさ。ほら、先生に終わったって報告しに行かなきゃ」

そうして怯えるその子を引きずるような形で田中さんたちは職員室へと向かった。

 

職員室には、別のクラスの担任である女性教師がいた。

田中さんたちから部活動終了の報告を受けると、彼女は笑いながら言う。

「ああ、そうそう。あなたたち。今日は第三日曜日だからね? バカなことしちゃダメだよ? 変なことしないで、早く帰りなさいよ? 旧校舎とか寄ったりしないで。私も、もうそろそろ帰るから」

「あ、ハイ。わかりました」

 

「……アンタがビビってるから、何も言わないのに先生にまでバレてるじゃん」

職員室を出てから、まだ怯えている様子のその子に向かって、田中さんが言う。

「いや、だってぇ……」

「いや、アンタ、そんなに怖がるけどさぁ。じゃあさ、オバケとか見たことあんの?」

「いや、ないけど……」

「なんだ。ただ怖がりなだけなんじゃん」

「でも、怖いよ……」

「いやいや、ないって。確かに昔誰か死んだみたいだけどさぁ。あんな話がグチャグチャのオバケなんて、ないでしょ」

「でも〜……」

 

そんな風に怯え続けるその子とやりとりしている内、田中さんの中に妙な気持ちが、ある種のサディスティックな感情が芽生えてきた。

その子は普段はそんな姿を見せるようなタイプではないのに、それほどまで怯えている。その様子が何故か面白く感じられたためである。

「……じゃあ、さ。中には入らないけど、旧校舎の近くまで見に行ってみない?」

「えぇ〜……」

その子は嫌そうな様子は見せるものの、反対はしなかった。

やはり、噂の真相を確かめたい、という気持ちがあったのだろう。

他の仲間たちも田中さんの言葉に賛同する。

そんなわけで、全員で旧校舎へ行くことになった。

 

当時、旧校舎の扉は施錠されていなかったそうだ。

「ほらほら、開いてるよ」

「やだ〜、怖い〜……」

「いやいや。ここ、いつも開いてるじゃん。別に今日だけ開いてるってわけじゃないでしょ」

相変わらず怖がり続ける例の子に対し、他の仲間が呆れたように言う。そのやりとりを聞いている内、田中さんの頭にある案が浮かんだ。

「……せっかくだからさ、中に入ってみようよ」

「ええ〜……」

「いや、あの先生ももう帰るって言ってたから、こっちまでは来ないだろうし、警備員さんに見つかっても追い出されるくらいだろうしさ。行こうよ」

「そうだね、行こう行こう。ほら!」

「え〜……」

 

そうして旧校舎の中へ足を踏み入れた田中さんたちは、薄暗い廊下を進んでいく。

「やだ〜、怖い〜……」

「イヤだったら一人で帰る?」

「それもイヤだ〜」

「じゃあ、一緒に来るしかないねぇ」

「うう〜……」

 

そんなことを話している内に、噂の女子トイレへと到着した。

入口の戸を開け、中を覗き込む。明かりをつけていない、というかそもそも電気が来ていないので中は薄暗いが、幾つか個室が並んでいるのが見える。

 

その並んだ個室の扉を見ている内に、田中さんたちは、あることに気づいた。

 

えつこちゃんが現れるのが何番目の個室なのか、それを誰も知らなかったのである。

 

というか、噂ではその部分が伝わっていないのだ。

 

例えば、有名な『花子さん』の噂なら、特定の個室をノックすると現れる、というのが定番だ。

しかし、えつこちゃんの噂からは、どの個室に現れるのかという部分がすっぽり抜け落ちていた。

 

 

──もしかすると、えつこちゃんが亡くなったのは旧校舎の他の場所なのではないだろうか。

そして噂に尾鰭がついていく中で、いつの間にかこのトイレで亡くなったのだと話が変化していったのではないだろうか。

だとすると、どの個室かわからないことにもあやふやな内容にも納得がいく。

 

 

いずれにせよ、大事な部分がハッキリしないと信憑性が薄れ、怖さも半減してしまうわけだ。

少々興醒めしてしまった田中さんたちだったが、

「まあとにかく、現場に来たんだし」

ということで、全部の個室の中を確認することにした。

 

全部で四つある個室を、手前から順に、戸を開けて覗いていく。

だが、何もなかった。

どの個室にも、古びた便器があるだけだ。当然、中には誰もいない。

念のため、一番奥にある掃除用具入れも確認したが、便器か掃除用具かの違いだけで、そこも同様の状態であった。

 

「……何もなかったね〜」

トイレの入り口へ移動し、田中さんたちはああだこうだと雑談を始めた。その中で、例の怖がりの子が安堵したように言う。

「あ〜、良かった〜。まだ現れてなかった〜」

普通、こういう時は『いなかった』と表現しそうなものだが、その子はそんな風に言う。

(……怖がりの人ってのは、上手いこと怖がるもんなんだなぁ)

田中さんはそのように感心していた。

 

 

ギィッ

 

 

「……えっ?」

個室の戸が開く音がした。

このトイレの個室の戸は、開けてから手を離すと慣性の法則で勝手に閉じていくタイプである。そして、田中さんたちは個室内を見た後、一つ一つ確かに戸を閉めていた。

そして現在、全員がトイレの入り口に集まっている。田中さんたち以外には誰もいないし、先ほど確認したように個室の中にも誰もいないはずだ。

 

しかし、音に驚いた田中さんたちが見ると。

手前から二番目の個室の戸が。

誰かが手をかけないと開かないはずの戸が。

確かに、開いていた。

 

(……どういうこと?)

他の皆が硬直している中。

何が起きたのか確認するべく、田中さんだけが二番目の個室へと近づいていった。

「あれ、おかしいなあ。さっき見た時は何ともなかったのに」

そう呟きながら、仲間たちが心配そうに見守る中、田中さんは二番目の個室の戸に手をかけ、開いて中を覗き込んだ。

 

 

ほんの数分前。

個室内を確認した時は、確かに誰もいなかった。

一つしかないトイレの入り口には、自分たちがいた。

誰もトイレに入ってきていないのは間違いない。

 

 

なのに、女の子がいた。

 

 

いや。

正確には『女の子たち』がいた。

 

 

田中さんたちと同年齢くらいの女の子が、五人ほど、個室内にいた。

 

閉じた便座の上に座って俯いている者。

 

田中さんに背を向ける形で、壁の方を向いたまま立っている者。

 

個室の隅で縮こまって、膝を抱えて座っている者。

 

それぞれ、全く違う状態でいる。

 

 

「えっ、なに? どうしたの⁉︎」

自分の目の前にいるものが何なのか理解できずに硬直している田中さんへ、トイレの入り口にいる仲間たちが声をかけた。

だが、目の前の光景に釘付けになっている彼女は、それに全く反応できなかった。

 

(えっ、なんで? さっきまで、誰もいなかったのに。なんで私たちくらいの女の子が、こんなに……)

 

その内に、田中さんはあることに気がついた。

個室の中にいる、似たような顔つきをした女の子たちが、少しずつ動いていることに。

 

身体を、首を、顔を動かし。

自分の方へ、視線を向けていることに。

 

 

個室の隅で座っていた女の子が、異様なほどに青ざめた顔をこちらに向けている。

 

便座に腰掛けていた女の子は、切り裂いた手首を田中さんに見せるように前へ突き出している。

 

壁の方を向いていた女の子は、首をグルリと回して田中さんの方を向き、血に塗れた首筋を見せつけている。

 

 

女の子たちはそれぞれ、噂で語られる『えつこちゃん』の死に様を再現し、それを見せつけるかのように動いていた。

 

 

「……ウワアアアァァァッ!」

恐怖に駆られ、悲鳴をあげて田中さんは逃げ出した。

仲間たちも、自分たちは何も見ていないのに、その様子を見てパニックに陥り、同じく悲鳴をあげ、泣きながら後を追って逃げ出した。

 

そうして旧校舎の入り口に向かって死に物狂いで逃げていく途中、偶然見回り中の警備員と鉢合わせたのだという。

「どうしたの、君たち!」

警備員がそう訊ねるものの、パニック状態の彼女たちにまともな受け答えができるはずもない。

仲間たちは、

「田中さんが何か見たみたいで、ウワーッて声をあげて逃げたから、私たちも怖くなって逃げた」

そう伝えるのがやっとだった。

田中さん自身も、何か怖いものを見た、そう繰り返すばかりである。

警備員は、泣き叫ぶ彼女たちを職員室に連れていくことしかできなかった。

 

職員室には何人かの先生がいて、警備員に連れられた彼女たちの元へ何事かと駆け寄ってきた。その中には、田中さんたちが部活終了の報告をした女性教師もいた。

「どうしたの、あなたたち! もしかして、行っちゃったの⁉︎ 旧校舎! ダメって言ったのに!」

どうしたんだろうか、集団パニックかと慌てふためいて駆け回る教師たちの中、女教師が喚く声が田中さんたちの耳に聞こえてきた。

 

それから彼女たちは落ち着くようにと教師たちから温かいココアを出してもらい、それを飲みながら連絡を受けた親が迎えに来るまで職員室で待機していたそうだ。

 

 

 

……田中さん曰く。

そうして職員室にいた時が一番怖かったそうだ。

 

 

というのも。

教師たちに見守られて他の仲間たちが座ってココアを飲んでいる中、田中さんだけが女教師に呼ばれ、職員室の隅、誰もいないところへと連れて行かれた。

そこで女教師から、問い正されたからだという。

 

 

「……それでね? えつこちゃんは、どういう形で死んでたのが本当だったの?」

 

 

(……なんでそんなことを今訊くんだろう?)

あまりにも唐突な質問だったため、最初、田中さんは何故そんなことを訊くのか、そもそも何を尋ねられているのかすらわからなかった。

が、状況を理解できない彼女のことなどお構いなしに、女教師は顔をグッと近づけ『何が正解だったのか』という質問を繰り返す。

 

 

「えつこちゃんはどうやって死んでたの? どうやって死んでたの? 見たんでしょ? 答えなさいよ」

 

 

女教師の背中の向こうには、職員室のソファーに座った仲間たちがココアを飲んでいる姿が見える。彼らが怖かった怖かったと呟き、それに対して教師たちが落ち着かせようとあれこれ声をかけているのも聞こえる。

他の人たちがそれほど近い距離にいるのに、女教師は田中さん以外の誰にも聞こえないような小声で、怖い顔をして質問を繰り返す。

 

 

「ねえねえ、教えて。見たんでしょ? 教えなさいよ。えつこちゃんはぁ、どういう死に方をしてたの? 首を吊ってたの? 手首切ってたの? 薬飲んだの?ねえねえねえ、どういう死に方してたの?」

 

「えっ、いや、あの、ちょっと、やめてください……」

 

迎えに来た田中さんの親が職員室に顔を出したのは、そうして問い詰められどうしようもなくなっていたタイミングでのことだった。

田中さんの家は学校の近くにあったため、連絡を受けた保護者の中でも一番最初に駆けつけてきたのが彼女の親だった。

田中さんの親が職員室へ来た瞬間、女教師は途端にいつもと変わらない表情と態度に戻り、他の教師たちと一緒に親を出迎えるため向こうへ行ってしまった。

問い詰められていたのは五分にも満たない短い間のことだったが、田中さんには女教師の豹変の理由が全く理解できず、トイレでの出来事も含め、まるで悪い夢を見ているかのような気分だった。

 

しかし、親と共に職員室を出ようとした時。

仲間たちや他の教師が心配そうに見送るその背後で、

(どうして本当のことを教えてくれないんだろう?)

とでも言いたげな、怪訝な、不服そうな表情を浮かべてこちらを見ている女教師の姿を、田中さんは確かに見てしまったのだった……。

 

 

翌日、月曜日。

登校中の田中さんへ、学年やクラスを問わず、生徒たちが次々声をかけてくる。

「ねえねえ! 昨日えつこちゃんを見たって本当⁉︎」

「えつこちゃん、見ちゃったんだって? どんなだったの⁉︎」

どこから漏れたのか、小学生のネットワーク間で、あっという間に話が広まってしまっていた。

どれだけあしらっても次から次へと声をかけられる。さすがにうんざりしてしまった田中さんは急いで自分のクラスへと駆け込み、そこでやり過ごすことにした。

ただでさえ、学校に行ったらまたあの女教師に呼び出されて問い詰められるかもと、そう思い悩んでいたところに、さらに加えて生徒たちからも無遠慮な質問責めである。

(どうせ教室でも皆から訊かれるんだろうな……)

と、陰鬱な気持ちになる田中さんだったが、幸いにもその予想は外れた。

 

好奇の視線を向けられているのは感じるが、クラスメイトとして気を使ってくれているのだろうか。

気遣う言葉をかけられたくらいで、昨日のことについて根掘り葉掘り訊いてくる者は一人もいない。

悪い言い方をすれば『腫れ物に触れるような扱い』というやつだが、無遠慮に接触されるより、遥かにマシだ。

 

(……今日は出来るだけ教室にいよう、そしてそのままほとぼりが過ぎるまでやり過ごそう。いつまでかかるかわからないが、皆が噂を忘れて飽きるまでそうするしかない)

 

あの女教師の豹変ぶりも理解できないが、それを知っているのが自分だけである以上、話したところで誰にも信じてもらえない可能性がある。

であれば、仮に呼び出しを受けて再び問い正されたとしても、やはり何とかやり過ごすしかないのだろう。

大人ならもっと良い手も浮かぶのだろうが、小学生ではそれくらいしか考えつかない。

そうするしかない、そうしよう。

チャイムの音を聞きながら、田中さんはそう決心するのだった。

 

 

……が、それからすぐに異変が起きた。

授業中、何やら外から聞こえてくる。

田中さんを始めとして生徒たちが異変に気づき、一部が授業そっちのけで騒ぎ始めたため、しばらく自習をするように命じて担任が廊下へ出ていった。

 

もちろん、小学生がその言葉に大人しく従うはずがない。

何事だろうと皆が騒ぐ中、窓を開けて廊下の様子を覗き見たクラスメイトによれば、二つ隣の教室の前に担任を含む複数人の教員が集まり、何か話し合っていたらしい。

その教室の中からは、生徒たちがガヤガヤと騒ぐ声が聞こえる。

どうやら、最初に聞こえてきたのはその教室の生徒たちの声だったようだ。

 

 

そして、その二つ隣の教室というのは。

例の女教師が担任を務めるクラスであった。

 

 

どうやらあの女教師は、朝の学級会の最中、急に席を立ち、何も言わずに教室を出て行ってしまったらしい。

それで、何が起きたのか、どうすればいいのかわからなくなった生徒たちが騒ぎ始め、それを聞きつけた他の教師たちが集まる事態になったわけである。

彼女の車は駐車場に残されていたため、校外へ出たわけではなさそうだ、と判断され、手の空いている教師や職員による校内の捜索が開始された。

 

 

まもなくして、女教師は旧校舎の二階の女子トイレで発見された。

命に別状はなく、怪我も負っていなかったが、発見した教師によると、彼女は二番目の個室内で閉じた便器の上に腰掛けて俯き、

「なんで教えてくれないんだろう」

そう呟き続けていたらしい。

そして知らせを受けて駆けつけた教師たちが彼女を外に出そうとしたところ、急に豹変して飛びかかってきたそうだ。その際、駆けつけた教師の内の一人が顔を引っ掻かれて怪我をしたとのことだ。

女教師はそのまま取り押さえられ、病院へと搬送されていった。

結局、彼女は二度と戻って来なかった。そのクラスの担任は後日、別の教師に変わったそうである。

 

 

……この話の収集後、『忌魅恐』の冊子を編集していたオカルトサークルの面々は地元の住民や小学校のOBへの取材を試みたそうだ。

(※『忌魅恐序章』を参照)

https://venal666.hatenablog.com/entry/2021/10/10/005647

 

すると、二つの事実が判明した。

 

一つ目は、最初に述べた、かつてえつこちゃんという生徒が実際に在学しており、彼女が旧校舎で亡くなっている、という調査結果。その内容が紛れもない事実である、ということ。

 

そして二つ目は、その小学校の土地には元々別の施設があり、旧校舎はその施設の一部を改築し再利用したものであった、ということである。

 

戦前、戦中から存在するような小学校では、そのように前にあった建物を再利用したものは決して珍しくないそうだが、ではその土地には元々は何があったのか、というと……。

 

 

病院だったそうである。

 

旧校舎の建っている場所には、元は小児科病棟があったらしい。

 

 

……もしかすると。

その病院が無くなってからも、あるいは病院だった頃から、ずっとその土地に残り続けていた『何か』が、内容のあやふやな『えつこちゃん』の噂に便乗して姿を現したのではないだろうか。それが、田中さんの見たあの女の子たちだったのではないだろうか。

 

 

……しかし。

だとすれば、女教師の件は、いったい何だったのだろうか……。

 

 

この話はかぁなっきさんによるツイキャス『禍話』 『年越し禍話 忌魅恐 vs 怪談手帖 紅白禍合戦』(2020年12月31日)

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/659295248

から一部を抜粋、再構成、文章化したものです。(0:09:00くらいから)

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画像はこちらからお借りしました

https://www.photo-ac.com/main/detail/1328249&title=%E5%8F%A4%E3%81%84%E5%85%AC%E8%A1%86%E3%83%88%E3%82%A4%E3%83%AC%EF%BC%88%E3%83%9B%E3%83%A9%E3%83%BC%E5%90%91%E3%81%8D%EF%BC%89